【一級建築士試験(計画)】「モラルハザード」を徹底解説

一級建築士

「モラルハザードなんて、建築とどう関係あるの?」と思われるかもしれませんが、実は建築プロジェクトのあらゆるフェーズに潜んでおり、設計者・施工者として知っておくべき重要な概念なんです。

そもそも「モラルハザード(Moral Hazard)」とは?

モラルハザードとは、「倫理的(道徳的)危険」と訳され、ある契約や状況において、片方の当事者がリスクを負うことによって、もう片方の当事者の行動が変化し、本来望ましくない行動をとってしまう現象を指します。

もっと簡単に言うと、「どうせ誰かが責任を取ってくれるから、ちょっとくらい手抜きしても大丈夫だろう」とか、「保険に入ってるから、少々無謀なことをしても安心」といった心理が働き、結果的にリスクが高まる状態のことです。

一級建築士試験で問われるモラルハザードの視点

では、具体的に一級建築士試験でどのような形でモラルハザードが問われる可能性があるのでしょうか?主な項目を解説します。

建築士法・倫理規定・建築士の業務

これは最も直接的に関連する項目です。

  • 設計業務におけるモラルハザード

    • 発注者からの無理なコスト削減要求に対し、建築基準法ギリギリの設計や、確認申請の際に虚偽の報告をしてしまう。
    • 設計監理を怠り、施工者任せにしてしまう(「どうせ施工者が責任を取るから」という心理)。
    • 構造計算書の偽造や、性能評価の不正に関与する。
  • 建築士の倫理観

    • 建築士法に定められた業務以外の不適切な行為(例えば、特定の業者からの不当な報酬を受け取るなど)は、モラルハザードの典型例です。
    • 自己の利益を優先し、施主の利益を損なうような設計や提案を行う。
  • 対策

    • 建築士法の条文はもちろんのこと、建築士としてのあるべき姿、倫理規定について深く理解しておくことが重要です。過去の事例や、建築士会で発表されている倫理規定なども目を通しておきましょう。

契約・請負契約・約款

建築プロジェクトは、多くの契約によって成り立っています。

  • 請負契約におけるモラルハザード

    • 施工者が、請負契約の範囲外の追加工事を安易に請け負ったり、品質を落としてコストを浮かせようとする(「検査で見つからなければ大丈夫」)。
    • 発注者が、設計変更を頻繁に行い、施工者に不当な負担を強いる。
    • 設計者・施工者が、瑕疵担保責任を負うことを前提に、手抜き工事を誘発するような姿勢をとる。
  • 保険・保証制度

    • 住宅瑕疵担保責任保険や、建設工事保険などが整備されていることで、「何かあっても保険でカバーされるから」と、本来取るべき安全対策や品質管理を怠ってしまう。
  • 対策

    • 契約書の文言、特に「瑕疵担保責任」「損害賠償」「契約解除」といった項目を理解することは必須です。また、公共工事標準請負契約約款や民間工事標準請負契約約款の内容も確認しておきましょう。保険制度についても、その目的と適用範囲を正確に把握しておく必要があります。

 

施工管理・品質管理・安全管理

実際の工事現場でもモラルハザードは起こりえます。

  • 施工管理におけるモラルハザード

    • 現場監督が、工期短縮のために、必要な検査を省略したり、手抜き工事を黙認する。
    • 作業員が、見ていないからと、危険な作業方法を避けずに、安全対策を怠る。
    • 下請け業者が、元請けからの厳しいコスト要求に応えるため、品質を犠牲にする。
  • 品質管理および安全管理システム

    • 形だけの品質管理体制を敷き、実効性がない。
    • 安全衛生委員会が機能せず、リスクアセスメントが形骸化する。
  • 対策

    • 施工計画、品質計画、安全計画の重要性を再認識しましょう。各管理項目の具体的な内容、チェックポイントを把握し、現場での実践的な知識も問われる可能性があります。

法規(建築基準法、品確法など)

各法規の遵守は、モラルハザードを防ぐための最低限のラインです。

  • 法規の抜け穴や解釈の曖昧さを悪用

    • 建築確認申請や検査の際に、意図的に虚偽の情報を提出したり、不適切な解釈を行う。
    • 長期優良住宅や低炭素建築物などの認定制度において、不正な申請を行う。

 

  • 対策

    • 建築基準法はもちろんのこと、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)、省エネ法などの関連法規についても、その目的と内容を正確に把握しておくことが不可欠です。

 

 

モラルハザードへの対策(建築士の視点から)

試験対策としては、モラルハザードがどのような状況で発生しうるかを理解するだけでなく、それを防ぐための建築士の役割も問われる可能性があります。

  • 情報公開と透明性の確保:

    • 発注者に対し、設計内容や工事進捗を正確に報告し、誤解や不信感を生じさせない。
    • 設計変更や追加工事が発生する際は、明確な根拠と費用を提示し、合意形成を図る。
  • 契約内容の明確化と遵守:

    • 曖昧な契約はモラルハザードを招きやすいです。契約内容を明確にし、当事者間で共有・遵守する意識を高める。
  • 専門家としての独立性と倫理観の保持:

    • いかなる圧力にも屈せず、建築士としての専門性と倫理観を堅持する。
    • 常に公正な判断を心がけ、施主や社会全体の利益を最優先する。
  • 第三者によるチェック機能の活用:

    • 必要に応じて、第三者機関による設計審査や工事監理、性能評価を活用し、客観的な視点を取り入れる。
  • 継続的な学習と情報収集:

    • 法改正や新しい技術、社会情勢の変化に対応するため、常に最新の知識を習得し、倫理観を磨き続ける。

まとめ

モラルハザードは、単なる「悪意」だけでなく、情報格差やリスク負担の偏り、不十分な契約など、様々な要因から発生しうる複雑な問題です。

一級建築士試験では、このモラルハザードという概念を理解し、建築実務においてそれがどのように顕在化し、いかにして防ぐべきかを、具体的な事例と関連法規を結びつけて解答できる力が求められます。

今日解説したポイントを踏まえ、ご自身の知識を整理してみてください。倫理的な視点も持ち合わせることで、より深く、建築士としての役割を理解できるはずです。

問題と解説

問題

「モラルハザード」は、保険の領域から派生した概念で、近年では、一般に、「倫理観の欠如」と約され、企業等が節度なく利益を追求する状態をいう。

回答

正解

解説

モラルハザードとは、元々は保険分野の概念で、保険加入後に被保険者がリスクを過度に取るようになる行動を指していました。しかし、近年ではより広く一般に用いられ、**「倫理観の欠如」**と訳されることがあります。

一級建築士試験においても、この「倫理観の欠如」という側面が重要になります。企業や個人が自己の利益を優先し、社会的な規範や倫理に反する行動を取る状態を指すため、建築業界における不正行為や手抜き工事、ずさんな管理といった問題に繋がる可能性があります。

建築士は、設計・監理を通じて公共の安全や利益を守る立場にあります。そのため、モラルハザードの概念を理解し、自身の業務において倫理観を高く持ち続けることが求められます。

免責事項: 本記事は一級建築士試験の学習を補助する目的で作成されており、特定の試験問題の出題を保証するものではありません。学習においては、必ず公式のテキストや過去問題、最新の法規をご確認ください。

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